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なぜ、選択問題の「不適当なもの」という指示を見逃すのか?
おはようございます。国語くらふと芦屋の大鹿です。6月に入って、多くの皆様にお問い合わせをいただき、大きなやりがいと責任を感じております。この場をお借りして厚く御礼を申し上げます。秋以降の成績に大きく影響する7月・8月の暑い夏も、皆様のお力になれるよう元気よく指導をしたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。引き続き無料体験授業を実施しておりますので、もし少しでも興味を持っていただけましたらお問い合わせフォームからどうぞお申込みください。
さて、私は、喋りのプロとして皆様に美声をお届けし続けるため、日々心肺機能の向上を心掛けています。入試直前期や長期休暇期間以外は、平日の授業が夕方以降であることがほとんどなので、天気が良い日の午前中はランニングを日課としています。そして、その目的地として色んな古本屋さんを設定し、掘り出し物の参考書が無いか探したりしています。掘り出し物が見つかった日の帰りは、国語の参考書を抱えて走ることになりますので、冷静に考えてみれば少々異様な光景かと思います。
先日のことです。ある古本屋さんの外国語関連の書籍のコーナーで、韓国語や中国語エリアの棚で興味深い場所を発見しました。皆さん、何か「違和感」はありませんか?
もう少し拡大してみます。
いかがでしょうか。そうです。「中国語」ではなく「中学国語」のテキストが1冊挟まっていますね。念のため申し上げますが、これは決して私が迷惑行為で正しい場所から移動させたわけではなく、初めからこうなっていました。今日はなぜこのようなことが起きるのかを、国語の選択問題を解く時に、なぜ「不適当なもの」を選べという指示を見逃すのか、ということ関連させて、深掘りして考えてみたいと思います。
1、「中学国語」を「中国語」と見間違えて、そのまま思い込んだまま行動に移る現象については、心理学や認知科学の視点から、いくつか関係している用語があります。そのうち、特に関連が深いと思われる4つの概念について検討してみたいと思います。
(1)脳の先回りが生む「トップダウン処理」のバグ
人間が文字を読むとき、一文字ずつカメラのように正確にスキャンしているわけではありません。脳は、これまでの知識や文脈から「次はおそらくこういう言葉が来るだろう」と予測しながら、視覚情報を補完して読んでいます。これを心理学でトップダウン処理(概念駆動型処理)と呼びます。脳が「中・国・語」という見慣れた漢字の並びのパターンを瞬時に認識し、勝手に「中国語」というゲシュタルト(ひとかたまりの概念)に変換してしまいました。文字を正確に見る(ボトムアップ処理)よりも、脳の予測(トップダウン処理)が勝ってしまった状態です。
(2)勘違いを補強する「確証バイアス」と「フォールス・メモリ」
文字を見間違えたあと、「中国語だと思い込んだまま受け取ってしまう」という後半の部分には、以下の2つの心理作用が働いています。
①確証バイアス(Confirmation Bias)
一度「これは中国語の本だ」と思い込むと、その後に本を棚に並べる時点で、自分の思い込みに都合の良い部分(棚に並んでいる他の本等)ばかりに目が行き、矛盾する情報(本の表紙や帯や作者の経歴といった中学国語を示すヒント)を無意識にスルーしてしまいます。
②フォールス・メモリ(虚偽記憶 / False Memory)
実際に書かれている「中」と「国」の間の「学」の字を、脳内で勝手に消去したり、目の前には存在しない「中国語」という文字を「確かに見た」と記憶を書き換えてしまう現象です。
(3)なぜそれが誘発されたのか?「プライミング効果」
もし、その文字を見る前に「語学」「海外」「最近流行りの言語」といったキーワードが頭に浮かんでいたり、そうしたニュースを直前に見ていたりした場合、プライミング効果(先行する刺激が後の判断に影響を与える現象)が働いています。脳が「中国語」というワードを受け入れる準備(プライミング)を勝手に整えていたため、見間違えがより強固になってしまったと考えられます。
(4)まとめると、「トップダウン処理」による文字の見間違え(錯読)から始まり、一度できた思い込みが「確証バイアス」によってロックされ、そのまま誤解し続けてしまう。これは、人間が文字や文章を「目」ではなく「脳の予測」で読んでいるからこそ、誰にでも起こるごく自然なエラーです。選択問題は多くの場合、「適当なもの」を選ぶように設定されています。中学入試問題の過去問のほとんども「適当なもの」を選ぶ問題になっており、「不適当なもの」を選ぶ引っ掛け問題はあまり出題されません。国語力を測るためにはこのような引っ掛けは本来ほとんど意味が無いからだと思われます。もっとも、各予備校の模試ではこのような「不適当なもの」を選ぶ引っ掛け問題が各模試につき数問は出題されます。これに毎回毎回引っ掛かるのは、おそらく、ほとんどの選択問題が「適当なもの」を選ぶ形式で出題されるため、脳の予測機能によって「不適当なもの」を「適当なもの」と誤読してしまうからだと考えられます。誰にでも起こる、ごく自然な脳のエラーなのです。
2、重要なのはここからです。ではどうすればこのエラーを防げるのでしょうか。
このような「文字の見間違え(錯読)」と「その後の思い込み(確証バイアス)」のコンボを防ぐには、脳の「自動パイロット(直感・予測)」を意図的に解除し、「手動モード(論理・確認)」に切り替えるアプローチが有効です。心理学では、脳の思考を「速い思考(直感)」と「遅い思考(論理)」に分けて考えますが、いかに「遅い思考」を強制起動させるかがポイントになります。具体的なアプローチとしては以下の3つが考えられます。
(1)入力段階でのミスを防ぐ(物理的・視覚的アプローチ)
まずは、脳に「トップダウン処理(先回り予測)」をさせないために「指差し(あるいはペン先での)確認」や「マーキング」をすることが最も有効です。目で追うだけだと脳は文字をスキップします。ペン先で文字を1文字ずつ追いかけたり、心の中で明瞭につぶやくことで、脳の処理速度が強制的に落ち、正確な「ボトムアップ処理(文字をそのまま見る)」に切り替わります。今から選ぶ選択肢が「適当なもの」なのか「不適当なもの」なのかは決定的に重要な情報なので、必ず「マーキング」しましょう。
(2)消去法を用いる(戦略的アプローチ)
選択する対象を一旦「適当なもの」と思い込んでしまうと、脳は矛盾する情報に気づかなくなります。「消去法」はこれを防ぐための思考法です。選択問題を解く際に「消去法」が有効であると一般的によく言われますが、その理由の一つが、この「不適当なもの」を選ぶ問題に引っかかりにくくなるという点にあります。選択問題において、「適当なもの」を選ぶ問題の場合、当然ですが、正解の選択肢以外は全て「不適当な」選択肢です。「不適当な」選択肢がたくさんあります。しかし、反対に「不適当な」選択肢を選ぶ設問の場合、当然ですが、「不適当な」選択肢は一つしかありません。そうすると、そもそも普段から消去法で解いていた場合、最初から「不適当な」選択肢を探しに行くため、複数ある「適当な」選択肢同士を比較して悩むという時間の無駄が起きにくくなります。
(3)「違和感」を大切にする(感覚的アプローチ)
一つの選択問題の選択肢の中に、複数の「適当な」選択肢があることは、通常の問題においては不自然な状態といえます。そこで、「違和感」を感じたら、つまり、極端にいうと「全部正しく感じた」場合には、そもそも「設問の指示そのものを見間違えているかもしれない」という可能性を常に検証する必要があると思います。「これは本当に適当なものを選ぶ問題か?」と、常に自問自答することで、確証バイアスを無効化できます。一つの模試の中で、1問か2問は「不適当なもの」を選ぶ問題が出題される可能性が高い以上、このように常に自問自答しながら選択肢に取り組む必要があります。この「違和感」を育てるためには、膨大な演習量が必要なことは言うまでもありません。
以上検討したように、要は脳の暴走(先回り)をいかに防ぐかが重要です。脳の「遅い思考」を起動するトリガーを自分の中に持つようにしましょう。
#中学受験 #国語 #国語くらふと #芦屋 #個別指導
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認知的複雑性と国語の関係(続き)
おはようございます。国語くらふと芦屋の大鹿です。以前、認知的複雑性と国語の関係についてブログを書きました。最近の指導で「近畿の中学入試国語2026年度受験用発展編」に掲載されている大阪桐蔭中学の入試問題の文章(参考書中には書かれていないので不明ですが、おそらく2025年度)を検討したところ、偶然似たような話が出てきたので紹介してみたいと思います。
この問題文は中野信子さんという方が書いた「脳の闇」という作品からの抜粋です。中野信子さんは京都芸術大学の客員教授もされている脳科学者で、youtubeで時折お見かけ致します。この文章で、中野信子さんは「脳は、複数の考え方をあいまいなまま抱えておくことを心地よくは感じないように出来ているともいえる。」と述べています。また逆に、「私たちは、それが正しかろうが誤っていようが、一つの考えに立脚し、確信を持つということに生理的なレベルで快感を覚えるようにできてしまっている。」とも述べています。ここには、認知的複雑性というワードは出てきませんが、おそらくは以前の私のブログ内で述べた認知的複雑性に関連した論述を展開しているものと考えられます。つまり、脳は認知的複雑性を高いレベルで維持することを避けたがる、ということだと思います。その理由について、中野信子さんは、「脳は自分の身体の中で、わずかな重量パーセントを占めているだけなのに、リソースは実に5分の1から4分の1も使ってしまうという浪費家でもある。」ので、「少しでも楽をしたいと常に願っている、働くことの嫌いな臓器でもある。」とも述べています。耳の痛い話ですね。中学受験国語(特に文学的文章)で求められる高いレベルでの認知的複雑性を維持するためには、少なくともテスト中は、本能的な脳の仕組みにあらがう必要があるのですね。
サッカーワールドカップで、日本は惜しくも強豪ブラジルに破れ決勝トーナメント1回戦で敗退してしまいましたが、サッカーに例えると、ブラジル相手に高いディフェンスラインを維持しつつ中盤をコンパクトに保ち、全員オフェンス全員ディフェンスで90分間プレスをかけ続けるようなものでしょうか。過酷であり、また残酷でもあります。とはいえ、これに打ち勝ってこそのワールドカップ優勝…もとい最難関中学合格だとも思いますので、やはり日々の脳の鍛錬が重要であるということを、講師の私も肝に銘じて指導にあたるよう、改めて気を引き締めたいと思います。
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